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はえ
蠅
海野 十三
「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页
床に大きな窓が明いているのであった。とたんにどッと降りだした篠をつくような雨は、風のために横なぐりに落ちて、窓枠をピシリピシリと叩いた。密林がこの小屋もろとも、ジリジリと流れ出すのではないかと思われた。
流れ出してもよい。すべて天意のままにと彼は思った。
雨は、ひとしきり降ると、やがて見る見る勢を失っていった。そしてあたりはだんだん明るさが恢復していった。風もどこかへ行ってしまった。
やがてまたホンノリと、薄陽がさしてきた。彼はまだ身体一つ動かさず、破れた壁を見詰めていた。雨が上ったら、どこからか妻がキイキイ声をあげながら、小屋へ駈けこんでくるように感じられた。だがそれは、いつもの期待と同じように、ガラガラと崩れ落ちていった。いつまでたってもキイキイ声はしなかった。
壁を見詰めている彼の瞳の中に、なんだかこう新しい気力が浮んできたように見えた。壁に、どうしたものかたくさんの蠅が止まっている。一匹、二匹、三匹と数えていって、十匹まで数えたが、それからあとは嫌になった。十匹以上、まだワンワンと居た。
(どうして蠅が、こう沢山居るのだろう)
彼はようやく一つの手頃な問題にとりついたような気がした。