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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

「うふーン」

と私は溜息をついた。蠅はしきりに腹のあたりを波うたせている。不図隣りの仔蠅の方に眼をうつした私は、どンと胸をつかれたように思った。

「呀ッ。大きくなっている!」

仔蠅の身体に較べて、親蠅はもう七八倍の大きさになっているのだ。そして尚もしきりに膨れてゆくようであった。

「ほほう。蠅が生長してゆくぞ。なんという素晴らしい薬の効目だ」

蠅は薬がだんだん利いて来たのであろうか。見る見る大きくなっていった。三十秒後には懐中時計ほどの大きさになった。それから更に三十秒のちには、亀の子束子ほどに膨れた。私はすこし気味が悪くなった。

それでも蠅の生長は停まらなかった。亀の子束子ほどの蠅が、草履ほどの大きさになり、やがてラグビーのフットポールほどの大きさになった。電球ぐらいもある両眼はギラギラと輝き、おそろしい羽ばたきの音が、私の頬を強く打った。それでもまだ蠅はグングンと大きくなる。こんなになると、蠅の生長してゆくのがハッキリ目に見えた。私はすっかり恐ろしくなった。

蠅の身体が、やがて鷲ぐらいの大きさになるのは、間のないことであろうと思われた。

(これはもう猶予すべきときではない。