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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

庭には花が咲いているはずだ。風に巻かれて諸々の花が、繚乱と散っていることであろう。

が、この部屋は静かである。燈火が金屏に栄えている。円窓の障子に薄蒼く、月の光が照っている。馨しい焚物の匂いがして、唐金の獅子型の香炉から、細々と煙が立っている。

なやましい春の深夜である。

それに似つかわしい美男、美女が、向かい合って黙って坐っている。

花ヲ踏ンデ等シク惜シム少年ノ春

燈火ニ背ムイテ共ニ憐ム深夜ノ月

そういう眺めと云わなければならない。

と、鼓の音がした。秋元の居間から聞こえてくる。つれづれのままに取り出して、秋元が調べているのであろう。曲はまさしく敦盛であった。一つ一つの鼓の音が、春の夜に螺鈿でも置くように、鮮やかに都雅に抜けて聞こえる。

秋安とお紅とは顔をあげたが、じっとその耳を傾けた。

と、自ずから眼が合った。

「まずお聞きなさりませ」

眼を見合わせた一瞬間に、秋安はお紅の眼の中に、愛情の籠もっていることを、直覚的に看て取った。

「廻国をするということは、この娘の本当の願いではない。たしかにこの俺を愛している」

そういうことも感ぜられた。

で、秋安は勇気づいて、思う所を述べ出した。