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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
「外出などもしないそうだ」
「つまりは守られているのだろう」
不破小四郎の邸の一間で、四五人の若い武士達が、雑然として話している。
宵を過ごした初夏の夜で、衣笠山の方へでも翔けるのであろう、杜鵑の声が聞こえてきた。
小四郎は秀次の寵臣である。邸なども豪奢である。銀燭などが立ててある。
その銀燭を左手へ置いて、上座の円座に坐っているのは、邸の主人の小四郎で、前髪も剃らない若衆であったが、不愉快そうに苦り切っている。
「俺はな」と小四郎は云い出した。
「ひどくあの娘が好きなのだ。廻国風の娘がよ。で、どうしても手に入れなければならない。そこでお主達に頼んだのさ。是非あの娘を盗み出してくれとな。ところがお主達はやりそこなった。先刻から話を聞いていれば、どうやら今後もお主達の手では、盗み出せそうにも思われない。あきらめてしまいえばいいのだが、変に俺にはあきらめられない。一体俺にしてもお主達にしても、普通の女には飽きている。つまり上流の娘とか、ないしは遊女とかいうようなものには、もうすっかり飽きている。漁って漁って漁りぬいたからよ。で、土民の娘とか、地下侍の娘とか、そういう種類の女共に、ついつい引っ張られるというものさ。