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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

「あッ」と云ったが、ビ――ンと扉をとじてしまった。

主殿とつながれている廻廊を、一つの人影が辷るように、こっちに近寄って来たからである。

「小四郎!」

「おッ、ご宿老様!」

「不忠者!」

か――ッと一太刀!

悲鳴が起こって骸が斃れた。

幸蔵主が樓上で耳にしたのは、この小四郎の悲鳴なのであった。

「四塚の姥! 扉をあけろ。……うむ、開けたか、顔を出せ。……お紅という娘が居るはずだ。丁寧にあつかって連れて参れ」

「かしこまりましてござります」

密房の扉があけられている。

砂金色の燈火が隙から射して、廊下を明るく照らしている。

血刀を下げて突っ立っているのは、宿老の木村常陸介であった。

足許に死骸が転がっている。一刀で仕止められた小四郎の死骸で、肩から胸まで割られている。

切口から流れた血が溜まって、廊下へ深紅の敷物でも、一枚厚く敷いたようであった。

「聚楽の乱脈はこの有様だ。とうてい長い生命ではあるまい。……頼むは五右衛門ばかりだが……」

懐紙で血刀をゆるゆるとぬぐい、鞘へ納めた木村常陸介は、廻廊の欄干へ体をもたせ、奥庭の木立の頂き越しに、伏見の方の空を見た。

「これは不可ない、仕損じたらしい」