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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

「頼母殿」と左門は穏かな声で云った。「貴殿には拙者は討てますまい。少くとも現在のお心境では。……その心境拙者にはよく諒解りまする。……さて拙者お暇つかまつる。拙者どこへ参ろうと、この血曼陀羅の紙帳を釣って、起居いたすでござりましょう。……それで、拙者を討つ心境となり、剣技においても、拙者を討ち取るだけにご上達なされたら、いつでも訪ねておいでなされ。……紙帳武士とお尋ねなされたら、大概は居場所わかりましょうよ。……拙者いつでも討たれて進ぜる」

それから、足もとに、今は肩息になっているお浦を見下ろしたが、

「不幸な女」と呟いた。「不幸にしたのは私じゃ! 償いせねば! ……死なば、わしの手で葬ろう。生き返らば……いや、わしの力できっと生きかえらせてみせる!」

紙帳で、死骸のようなお浦の体をつつみ、それを抱いて、左門が歩み出したのは、それから間もなくのことであった。

林の木々は、左門の左右から、左門を眺めているようであった。遙かの行く手に、明るく黄金色に輝いている箇所があった。林が途切れて、陽が当たっている箇所らしい。その光明界を眼ざして左門は歩いて行くように見えた。