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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

――白刃が前後左右に閃めくのであった。数声悲鳴が起こった。渦潮は崩れ、一勢に引いた。杭は、わずかにその位置を変えたばかりで、同じ姿勢で立ってい、その前の地面に、三個の死骸が――波の引いた海上に、小さい黒い岩が残ったかのように、転がっていた。左門に斬られた五郎蔵の乾児たちであった。

子供を産む妖怪蜘蛛

五郎蔵は地団駄を踏み、いつか抜いた長脇差しを振り冠り、左門へ走りかかったが、にわかに足を止め、離座敷の方を眺めると、

「蜘蛛が! 大蜘蛛が!」

と喚き、脇差しをダラリと下げてしまった。

畳数枚にもあたる巨大な白蜘蛛が、暗い洞窟の中から這い出すように、今、離座敷の、左門の部屋から、縁側の方へ這い出しつつあった。背を高く円く持ち上げ、四本の足を引き摺るように動かし、やや角ばって見える胴体を、縦に横に動かし――だから、太い、深い皺を全身に作り、それをウネウネと動かし、妖怪蜘蛛は、やがて縁から庭へ下りた。と、離座敷が作っている地上の陰影から、蜘蛛は、月の光の中へ出た。蜘蛛の白い体に、無数に附着いてる斑点は、五味左衛門の腸によって印けられた血の痕であり、その後、左門によって、幾人かの人間が斬られ、その血が飛び散って出来た斑点でもあった。