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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

ザコネなさらない」

と、放二がさそったが、

「カアチャンが心配するからね」

立ちあがって帰りかけたルミ子は、オデン屋が腰をうかしての会話に、ふと気がついたらしく、

「オジサン。私んとこへ泊ってかない。安くまけとくわ」

「商売熱心な子だね。親類筋を口説いちゃいけないよ。これだからマーケットは物騒だって、ウチのカアチャンが心配するはずだ」

ルミ子はものうそうに笑った。深く澄んだ目だ。こんどは長平をジッと見つめて、

「じゃア、先生、泊って下さらない」

澄んではいるが、瞳の奥に濃色のカーテンが垂れているように思われた。そして両手を後背にくみ、首をまげて、背延びをした。長平が冗談のツモリでいると、放二が言葉を添えて、

「先生。ルミちゃんの部屋へお泊りになってはいかがですか。ここは、ぼくたち、ザコネですから。ルミちゃんがお茶をひいてて、ちょうどよい都合でした」

彼らにとっては、なんでもない事らしかった。

長平もこだわらぬ方がいいと思ったから、彼もさりげなく、言った。

「そうだね。それじゃ、ルミちゃんとこへ泊ることにしよう」

「うれしい」

ルミ子は長平の頭上からおいかぶさって接吻した。