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まちはふるさと
街はふるさと
「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页
淋しそうなカゲはなかった。もう、ここの人になりきって、いるようであった。
裏と表
一
放二はせつ子に報告した。
予想していたことにくらべて、あまり意外千万なので、せつ子はいぶかしそうに、
「そう……」
と答えただけで、ほかに言うべき言葉すらないようであった。
せつ子は長平の宿に電話して訪問をつげ、放二をともなって、自家用車にのった。
二ヶ月前までは電車にもまれ、靴下のいたむのを気にしながら訪問記事をとって歩いていたせつ子であるが、自家用の高級車も板につき、衆目の指すところ、日本に於て最も傑出した女性の一人になりきっている。
戦争の最中には、時間感覚の奇妙な崩壊が起ったものだ。勝っている時もそうであるし、負けている時もそうであった。シンガポールを占領したのは三四年前の出来事のように思われるのに、算えてみると、実は二ヶ月半ぐらいしか過ぎ去っていないのだ。ラバウルの危機、ラバウルへ飛行機を! そんなことを新聞が叫んでいたのは五年も前の遠いことのような気がする。サイパンが敵に占領されたのも去年の話のようだ、が、実は算えてみると、サイパンが陥ちてからまだ一ヶ月を経過せず、ラバウルの危機も今年の正月ごろの話なのだ。