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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

とにかく、奇怪事であるですよ。たまたま記代子さんが僕をたよって逃げて来た、ね、ぼくたるや、大過去のインネンはとにかくとして、さしあたって何の責任がありますか。むしろ、逃げられたあなたは、あなた自身の責任を感じ、あわせて、彼女を無事保管の任を完うせるぼくに向って感謝の意を表して然るべきではないですか。あなたの態度は常にあなた自身の感情に即してはいるが、物の当然しかるべき理に即してはいませんな。けだし、記代子嬢があなたの邸宅を逃げだしたのも、直接の原因は、そのへんにありと見たのはヒガメですか。どうもね、とかく御婦人は暖冷ただならぬものではあるが、あなたは格別だね。その冷たるや、冷血動物以下、ぼくがツラツラ案ずるに、大そう水ムシによく似ているです。足にできる水ムシのことですよ。あいつは痛くもカユくもないが、実に無残に肉にくいこみ、一生涯、なんとしても治らんです。実に、一生涯ですよ。死ぬまでですよ。死んでからでも、足の指のマタにハッキリくいこんでまだ生きているのですよ。見たわけじゃアないがね。そうに、きまッてらア。実に、人生に最も酷薄なるものは、水ムシの如くに、痛くもカユくもないです。