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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

あなたは健全な常識を身につけた方でしたが、かりに立場をかえて、あなたがよその男から、同じことを持ちかけられた場合を考えていただきたいと思います」

「非常識は承知いたしております。ですが、ただ御返事をいただくだけでよろしいのですが、それも御迷惑でしょうか」

「それがですよ。返事の仕様のない場合も、あるものですよ。一方の感情がたかぶりすぎて、非常事態宣言の線を突破しているときには、平時の安眠にふける庶民の魂は、ついて行けないのが自然です。たとえば、です。夜道にオイハギにやられつつある男が、たまたま通りかかった人に、助けをよびかけます。これに対して、よびかけられた方は返事の仕様がありませんよ。余は武術のタシナミもなく、非力であるから、助けたい気持もあるが、兇器をもてるオイハギに立ちむかって汝を助ける力量はないと自覚している。余としては、侠気と生命慾との差引勘定にしたがって、余の行動を決せざるを得ない。よって余は汝を見すてて逃げ去るであろうが、汝これを諒せよ。こう事をわけて返答してもいられませんよ。あなたの場合も、これに類する場合です」

こんな屁理窟を言いながら、礼子の言い方があんまり身勝手で非常識だから、イライラしながら、妙にさしせまった色気にもむせたりした。