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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

そんなことで怒られるとは、放二は悲しいことだった。

「君は奥さんがあるのかい」

「は?」

放二はビックリして顔をあげたが、

「いいえ」

長平を見つめて、答えた。

澄んだ目だ。弱々しい目だが、正しい心と、よく躾けられた情操がみなぎっている。こんな澄みきった目の青年を疑るなんて、オレもどうかしているなと長平は内々苦笑した。

「記代子がそんなことを疑っているらしいのでね」

長平は笑った。

「どうも、娘がさ。人に女房があるかないか気に病むなんて、怪しからん話だがね」

三

しかし長平は笑ってすますワケにもいかなかった。

「君は御両親がなかったのだね」

「ええ。一人ぼっちです。ぼくは棄て子なんです。ぼくの名も、拾って育ててくれた人がつけてくれたのです。養父母は三月十日の空襲で死にました」

その来歴はかねて長平もきき知っていた。しかし、何度きいても、解せないのだ。放二は心も情操も正しいように、容貌風姿も貴公子であった。拾われて育てられた棄て子が、そして、終戦後は孤児となり苦学して私大の文科をでたという荒波にもまれ通した子供が、なんのヒネクレた翳もなく、若年にして長者の温容を宿しているというのがわからない。