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うらぎり
裏切り
「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页
ぼくが阿久津に働いていたので、日野が出入りするようになりました。彼が元子爵の息子だというのは本当です。
しかし奴めを斜陽族と云うのはとんでもないことで、彼が戦前ぼくと中学同級のとき、すでに裏長屋同然のところから通学しておりました。彼の父の子爵もそこに住んでいたのです。戦前から落ちぶれはてた世に稀な貧乏華族だったのです。
ぼくらは彼を野ザラシとよんでいました。例の落語の野ザラシで、サレコーベに酒をぶッかけて家へ戻ると女のユーレイがお礼に現れたという話ですが、アダ名の意味はガイコツというのでしょうか。当時奴はガナガナやせきっていました。酒でもぶっかけると元華族になる、子爵のなれの果てというようなひどい意味であったかも知れません。まったく戦前からなれの果てでした。そんなわけで、なまじ子爵の子であるために劣等感ばかり味って育ったのです。
戦災で奴めの裏長屋が焼け消えて、華族全部が消え失せたので、奴めもにわかに斜陽族に出世したわけで、それからの奴めの羽ぶり、にわかに斜陽族ぶったキザといったら、ぼくもウンザリするときがありました。
もともとなれの果ての生活になれていますから斜陽族を利用してタダでメシを食う手に熟練していたばかりでなく、ホンモノの斜陽族に有りうべからざる限度の心得があって、何から何まで計算の上でやっ