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うらぎり
裏切り
「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页
奴は全部計算の上でやった仕業に相違ありません。八千代サンは洗いざらい人に喋ってしまうタチですから、その一夜の出来事がトオサンはじめ一同に筒ぬけになるにきまってるのを見ぬいた上での演技なんです。日野にとってはトオサンの信用を得ておくことがまだ処世上必要ですから、慾情をギセイにしても、トオサンの気に入るようにすることが得策だと計算したにきまっています。奴が八千代サンを愛してるのは確かですが、それは決してこの一人の女というような愛情ではなくて、肉体をもとめているだけの愛情にすぎないのです。
「八千代サンのオッパイはまだ小さくて堅いね。発育不完全というよりも、ちょッと不具者の感じだな」
というようなことをふだん云ってたのですが、そんな云い方は無関心でも云えないし、軽蔑の念がなくても云えない性質のものだろうと思います。ですから彼が八千代さんに肉慾的な執着をもっているのは明白なんですが、トオサンの信用を得ておくためには、その執念を抑えることができる奴です。トオサンの信用を得ておく利益と云えば週に二三回ライスカレーにありつくだけのことなんですが、それでも一夜の肉慾よりはマシと見るところに彼の計算法の独自さを見るべきです。