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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

「ヤだなア。キミは礼儀知らずだよ」

「礼儀知らずは、あなたよ」

「ウソだい。男が女の身体にさわりたがるのは人情じゃないか。イヤなら静かに云っとくれよ。よッぽどショッてなきゃア、そんなことできやしない。さもなきゃア、キミはよくよくガサツなんだ」

「あなたを男あつかいしてないからよ。犬か猫だと思ってるから。必ずぶち返してあげるから」

「フトン一枚かしてくれないかな」

「ここへ寝なさいな」

「そうはいかないよ。自然の情というものは人間にはあるんだからね。木石じゃアないから、仕方がないよ。しかし、寒いな」

秋でした。日野は座ブトンをしいて外套をひッかぶって寝てみたのですが、隙間風がたまらないから、外套をきて壁にもたれて坐り、膝の上にも座ブトンを当て腕をくんで睡りましたが、案外にも夜が明けるまでそのカッコウで睡ることができたそうです。

トオサンが日野をシンから信用するようになったのは、その一夜の出来事が判ってからです。さすがに育ちだなアと全然斜陽族にきめこんでしまった次第ですが、オレの若いころはそんなことはできなかったものだというのがトオサンの述懐で、そう云われてみると、ぼくなぞもできない方かも知れませんが、しかしこれは日野がずるいせいなんです。