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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

オナカがペコペコなんですもの」

「では日野サン、一枚ワタクシに売ってください」

セラダはテーブルの上へ千円札をおきました。まさかツリはとらないだろう。千円ならわるくはないと見て、日野はだまって皿を一枚だしました。その隙に他の一皿も八千代サンがサッと横から取り上げてしまったのです。

「よせやい」

「千円で一皿はひどいわよ」

「だってセラダサンは一枚売って下さいッて云ったじゃないか」

「私が二枚と云い直す。イーだ」

セラダと八千代サンは早くもテーブルにつきさっそくビフテキをパクつき、改めてチェリオと乾盃をやっております。日野はイスにもたれてそりかえり、両腕をくみ、両眼をとじ、実に憮然という構えで長い瞑想にはいりました。そのままの姿勢でたっぷり五十分はつづいたでしょう。それこそは元貴族のナレの果ての構え充分の貫禄がそなわっているかに見えたのです。そして彼が目をあいた時には彼氏と彼女はすでに相擁して立ち去った後でした。八千代サンは全然千鳥足だった由です。

その翌日もまた翌日もセラダと八千代さんは一しょに現れ、相擁して千鳥足で立ち去りました。次の晩から二人そろって姿を見せなくなったのは遠出の証拠と見られたのです。