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うらぎり
裏切り
「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页
彼は鼻の下のベトベトしたツバをふいて、これも鼻の下の長いせいかと変なことまで思いついたりして、無性になさけなくなって、
「ぼく、もう、帰るよ」
「私、病気が治ると留置場へ入れられるわよ。ヒロポン見つかったんですもの。早く手をまわして、助かるように運動してよ」
「そんな手ヅルないよ」
「セラダに会いたいわ。会わせてよ」
日野はもうたまらなくなって部屋をとびだしてしまったのです。
しかし彼はその足でウチへくると、これをことこまかに報告して、落着きはらっていました。
「あすあたりからひどい禁断症状だろうな。精神病院ものかも知れないと思うよ」
薄笑いさえ浮べて、一向に動じた様子もなく云いきるところはややアッパレでした。奴も八千代サンの獣的異変と女性の退化性の確認によっていくらか大人になったのかも知れません。
そうこうしているところへ、トオサンと小夜子サンが疲れきって戻ってきました。ぼくたちはセラダ負傷の記事により隠遁の必要がなくなって出てきたものかと早ガテンした始末でしたが、そういう偶然があったために、トオサンもやや顔が立ったかも知れません。
ぼくはトオサンがセラダのことも八千代サンのことも知らないのに驚いて、二人が誰にも会わないうちに別室へつれこんで、留守中の異変を逐一説明に及んだのです。