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はだかぎ
裸木
豊島 与志雄
「新潮」1926(大正15)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页
――一定の形を具えた空虚……動き廻ってる空虚……。
佐野はそんなことを頭の中でくり返した。
暫くぶりに、レストランの中でふいに現われて、変なことを饒舌って、仮面みたいな憂鬱な顔をして、今黙々として歩いてる武田自身が、形はあるが空虚だったら……。拳固でどやしつけて、その拳固がすっと突きぬけたら……。
佐野は我ながらばかばかしくなった。とたんに、衝動的に、武田の肩を叩いた。骨立った薄っぺらな固い感じがした。
「え?」
振向いた武田より佐野の方が、なおびっくりしていた。
「だって……おかしいじゃないか。」
何がだってだか……ただそんな風に云ってみた。
「何だい、だしぬけに……。」
好奇な鋭い眼付は、武田の存在を生々とさした。
「なに……一寸……。」
考えてるうちに佐野は落付いてきた。愉快そうな顔をした若い女が、幾人も通っていた、男も……。
「こんなことがあるよ。結婚して二三年すると、一種の倦怠期と云うか……免に角、夫婦生活に興味がなくなって、淡い幻滅の時期がくる。誰だってそうらしい。そして自由な独身者を羨んだりするようになる。夫婦生活というものが、変に束縛という風にばかり感じられて、細君が亡くなったらと、そんな想像までするようになる。