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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

ただ、眼に見えなくて、感じられるだけのものだが……然し、もし空虚そのものが眼に見えるようになったら……。」

「そりゃあ……困る……。」

「困るとか困らないとかいう問題じゃないよ。全く思いもよらないことなんだ。」

「誰だってそんな……。だが、考えてみれば、それも愛情のせいかも知れないよ。」

「愛情……そういった気持とは全く別なものだ。僕は何だか不気味な恐ろしい気持さえしてるんだから。」

佐野も聞いてるうちに何だか変な気持になりかかっていた。それは単に気のせいだ、と云ってしまいたかったが、武田の調子や顔付を正面にしては、そうも云いきれないものがあった。

暫く黙り込むと、武田の顔はまた憂鬱な仮面みたいになっていた。

「外を少し歩こうか。」

「うん。」

街路の方が、燈火の度は遙に淡かったけれど、佐野には、ずっと明るいところへ出たような気がした。多くの通行人の頭の上を軽い風が吹き過ぎていた。空高く、星が二つ三つ光っていた。方々で、ラジオの喇叭から、無関心な騒音が流れ出ていた。

武田は何かに怒ってでもいるかのように、黙って真直に歩いていた。単衣に兵児帯、そして太い支那竹のステッキをついて……。