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はだかぎ
裸木
豊島 与志雄
「新潮」1926(大正15)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页
……ところがね、鬢附をねっていると、その匂いがぷんと鼻にくる……。薬品の香のこもった厳粛な実験室だ。その中で鬢附の匂い……そして、色街のことがふっと頭に浮ぶ……。そうなると、その日は駄目だが、一晩遊んで翌日からは、平素に倍して実験に身がはいる……と云うんだ。普通の男にとっては、遊びなんていうものは、それが全部で、そしてそれだけのものさ。」
話してるうちに、橋のところに出た。油ぎったどろりとした水が、波紋一つ立てないで、街燈の灯を映していた。
「じゃあ僕は、ここで失敬しよう。」
武田は突然そう云った。憂鬱な仮面になっていた。
「え……一緒に一杯やるんじゃないのか。」
「いや、またこの次にしよう。今日は一寸用があるから……。」
「だって……。」
「そのうちに行くよ。……そう、赤ん坊を見に行こう。」
「…………」
佐野は呆気にとられた。一人になってもぼんやりそこに佇んでいた。やがて、俄に変梃な気持になった。
――さて、どうするかな。行っちまうか。
街路の灯と明るい商店と見ず識らずの通行人……。その中で、肌寒いほど一人ぽっちの彼だった。
四五日後の午後だった。
「あなた、今日武田さんがいらっしゃいましたよ。