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はだかぎ
裸木
豊島 与志雄
「新潮」1926(大正15)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页
以前より落付も出来、重みもつき、前よりいくらか美しくなり、肉附も血色もよくなっていた。
「あなたはこの頃、何だか変に軽っぽくなりなすったようよ。どうなすったの。もう一人前のちゃんとしたお父さんじゃありませんか。」
「うむ、そうだそうだ。だから僕も考えてるんだ。」
「何を…。」
「しっかりしようとね。」
「あれですもの、じきに。冗談だか真面目だか、あなたはちっとも区別がないわ。」
「…………」
彼はいきなり敏子を抱き上げた。彼女は軽かった。それが満足なような不満なような、訳の分らない気持で、彼はふらふらと外に出歩いた。
佐野は夜更けてから、タクシーで帰ってきた。電車通りの角で降りて、それから三町ばかりのところを歩いた。
しいんと寝静まった薄暗い横丁だった。夜気が冷く頬に触れた。
彼はそういう場合のいつもの通り、半夜の相手の女のことなんかはもう遠く忘れかけていた。そして平素よりも遙に、落付いた真面目な気持になっていた。しみじみと人生を考える、そういう心の状態だった。
――俺は一体何のために生きてるんだ。
うそうそとそこいらを嗅ぎ廻ってる犬の側を、親しい気持で通りぬけて、ふと、ひどく淋しくなった。