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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

いつまでも同じような時間だった。さめた酒の酔が、頭の奥に変にこびりついていた。

佐野はまた武田の方へやっていった。

武田の顔は憂欝な仮面になっていた。じっとして動かなかった。

「起きてても仕様がない。寝たらどうだい。泊っていってもいいんだろう。」

「うむ。……だが寝ても仕様がない。」

「もう二時近くだよ。」

「…………」

露が霜にでもなりそうな、しいんとした夜だった。

「君は、どこへ行ってたんだい。」

突然、電燈の光を受けた武田の顔が、薄黒く冴えてきた。

「どこにって……。」

「不都合だよ、こんな時に……。」

「然し……知らなかったんだから……。」

「知らなくっても、いいことじゃない。」

「そうかなあ。」

佐野は腑に落ちない顔付をした。悪い……と云えば悪いようだけれど、さてその悪いという実感が少しも胸にこなかった。

「赤ん坊はいい。病気になってもちっとも苦しまないから。あれで、ひどく苦しんだら、君は堪らなくなる筈だ。」

「そんなに悪そうでもないよ。」

「悪くないように見えても、悪いように見えても、同じことじゃないか。病気は病気だよ。僕は、妻が死んでから後で、なぜもっとよく看病してやらなかったかと、それが切なかった。