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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

どこをどうという理由もないが、武田はまだ食事をしていないに違いないという感じが、しきりにするのだった。

「ほんとかい。」

「ああほんとだ。」

武田は頑として冷い顔をしていた。

佐野は食事を続け、武田はビールを飲んだ。

「行こう行こうと思ってて、つい行きそびれちゃってね……。」

「いやお互様だよ。……君んとこは皆丈夫かい。」

「ああ丈夫だ。」

「二人とも……。」

「二人とも、……うむ、丈夫にしてるよ。」

敏子の顔が、ちらと佐野の頭に映った。と同時に、擽ったいような変な気持になった。

「君も……もう落付いたかい。」

「落付いたと云やあ、落付きすぎたくらいだが……。」

「そりゃあいい。」そして佐野はじっと武田の顔を眺めた。「細君に死なれるってことは、実際経験してみなけりゃあ分らない、とそう僕は考えて、其後行きそびれちゃったが……。」

「いや、その方が僕は有難かった。なまじい変なことを云って慰められるよりも、そっと触れないでおかれた方が、どれほどいいか分らない。」

「ふむ、そんなものかなあ。」

「どうして……。」

「どうしてってことはないが……一体どんな気持だい。随分困ったろう。」