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はだかぎ
裸木
豊島 与志雄
「新潮」1926(大正15)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页
「その当座は全く困っちゃった。だが……子供がないのでまあよかったが……何もかも済んでしまって、落付いてしまった後が、どうもいけない。」
「というのは……。」
「何かしら残ってるんでね。」
「そりゃあ残ってるだろうよ。」
「それがね、変なんだ。妻の品物がそこらにあるとか、僕の身の廻りの世話が行届かなくなるとか、そんなことなら当り前の話だけれど……。」
「まだ何かあるのかい。」
「ある。……だが、もうそんな話は止そうよ。」
「話したくないことなら、仕方ないが……。まあいいや、そのうち何もかもよくなるよ。実際人に死なれるってことは、嫌なことだ。僕にも母が死んだ時の覚えがある。然し、いつのまにか、遠い過去のことになってしまうものだよ」
「…………」
武田は黒ずんだ眼を瞬いて、陰鬱な表情をした。その色艶の悪い痩せた顔が、電燈のだだ白い光を受けて、仮面のように見えた。
「凡ては時の問題だ。余りくよくよするものじゃないよ。」
「……ない筈なんだ。普通に考えればおかしいよ。」仮面の顔が急に真実になってきた。「然し、君にだってこういう経験はあるだろう。室の中の道具を、他の室に移すとする……例えば、箪笥だとか戸棚だとか、長くいつも同じ場所にあった道具を、俄に取りのける。