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せいこのしじん
西湖の屍人
海野 十三
「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页
漢于仁は、今から一千年も前に、この地を選んで、大土木工事を起した呉王の意中を測りかねた。だが当時は、唐の壊滅をうけたあとの乱国時代のことだから、いつ呉王を覘って敵国の軍勢が、攻めよせてくまいものでもなかった筈だ。そのときに、鳴弦楼と呼ばれるこの高塔は、望遠鏡の力を借りて四十里彼方に蟻の動くのも手にとるように判ったことだろうし、よしんば敵軍がこの塔下に迫って、矢を射かけても、あたりは十尺もあろうという厚い壁体だし、開いている窓はたった一つであるから、一筋の矢を送りこむことも不可能だったことだろう。そこに先祖の用心があったかもしれないのだった。
だが、今となっては、呪いの小窓以外の、何ものでもない。
「もっとも、私はもう死んでいる身なのだ」
漢于仁は、そこで大きな溜息を一つついたのだった。
帆村探偵が、漢于仁の顔を見たらば、どんなに驚くことだろう。それは、いつか鼠坂の心霊実験会で逢い、それからのち、真夜中の銀座裏で突飛な質問を浴せかけたあの神田仁太郎という怪青年に瓜二つの顔だったから。しかし、あれは日本での出来ごとだった。ここは疑いもなく、西へ五百里も距った中華民国は浙江省での話だった。