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スペインのこい

西班牙の恋

国枝 史郎

「新趣味」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,387 字 · 49 页

青空文庫

全然意外の方面にその犯人は居るのですよ……手太鼓の音と山羊の声、たしかにお聞きになったのですね? ところで手太鼓の音に混って鈴の音が聞えはしませんでしたか? これは大事なことですがね」

で、私は少し考えてから、

「そう云えば聞いたようにも思われます。手太鼓の音が、家の周囲をぐるぐる幾度も廻わり乍ら、パンパンパンと、大変陰気に、ひっきり無しに鳴ってる最中に、ほんの時々、チリチリと云う、小鈴の音が聞えました」

「時々聞えたと云うのですね?」イバネスさんは斯う云われて暫く考えて居られたが、

「あの夜は風が吹きましたね?」

「嵐の気味でございました」

「成程、それでは、太鼓と違って、鈴の音は大変小さいから、ひっきり無しに鳴っていたとしても、太鼓の音のようにハッキリとは聞えなかったかもしれませんね。そこでもう一つ、山羊ですが、これも時々鳴いたのですね?」

「矢っ張り時々でございました。それも私はその晩は、山羊が鳴くのだとは思いませんでした。誰か風邪をひいた人でもあって、その人が屋敷を廻わり乍ら――あの、つまり散歩をしながらですね、咳をするのだと斯う思って、気にも掛けずにいたのでした。