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ふくめんのぶとうしゃ

覆面の舞踏者

江戸川 乱歩

「婦人の国」新潮社、1926(大正15)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,827 字 · 30 页

青空文庫

四

四

焼けるような喉の乾きを覚えて、ふと目を覚すと、私は、私の寝ていた部屋が、いつもの自分の寝室でないことに気づきました。さては、昨夜踊り倒れて、こんな家へ担ぎ込まれたのかな。それにしても、この家は一体全体どこだろう。見ると、枕許の手の届く所へ、呼鈴の紐が延びています。私は兎も角、人を呼んで聞いて見ようと思い、その方へ手を伸しかけて、ふと気がつくと、そこの煙草盆の側に、一束の半紙が置かれ、その一番上の紙に何か鉛筆の走り書きがしてあるのです。好奇心のまま読みにくい仮名文字を、何気なく拾って見ますと、それは次のように認めてありました。

「あなたは随分ひどい方です。お酒の上とは云えあんな乱暴な人とは知りませんでした。しかし今更ら云っても仕様がありません。私はあれは夢であったと思って忘れます。あなたも忘れて下さい。そして、このことは井上には絶対に秘密を守って下さい。お互のためです。私はもう帰ります。春子」

それを読んで行くうちに、寐ぼけていた頭が、一度にハッキリして、私は何もかも悟ることができました。「あれは、私の相手を勤めた婦人は、井上次郎の細君だったのか」