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ふくめんのぶとうしゃ
覆面の舞踏者
江戸川 乱歩
「婦人の国」新潮社、1926(大正15)年1~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,827 字 · 30 页
三
気の利いた司会者は、態とダンス物を避けて、静かな絃楽合奏のレコードをかけましたので、ダンスを知った人も、知らない人も、一様に素人として、広間の中を廻り始めました。若しそこに僅かの光でもあろうものなら、気がさして、迚も踊ることはできなかったでしょうが、司会者の心遣いで、幸い暗闇になっていたものですから、男も女も、案外活溌に、おしまいには、コツコツという沢山の跫音が、それから、あらい息使いが、広間の天井に響き渡る程も、勢よく踊り出したものであります。
私と相手の女も、初めの間は、遠方から手先を握り合って、遠慮勝ちに歩いていたのが、だんだん接近して、彼女の顎が私の肩に、私の腕が彼女の腰に、密接して、夢中になって踊り始めたのであります。
三
私は生れてから、あのような妙な気持を味ったことがありません。それは、まっくらな部屋なのです。そこの、寄木細工の滑かな床の上を、樹の肌を叩いている無数の啄木鳥のように、コツコツコツコツと、不思議なリズムをなして、私達の靴音が走っています。そして、ダンス伴奏にはふさわしくない、寧ろ陰惨な、絃楽またはピアノのレコードが、地の底からのように響いています。