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ふくめんのぶとうしゃ

覆面の舞踏者

江戸川 乱歩

「婦人の国」新潮社、1926(大正15)年1~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,827 字 · 30 页

青空文庫

二

家内は意味あり気に、そんなことを云いながらお茶を入れ始めました。

「へへへへへへ、少しばかり商売上のお話がありましてね」

井関さんは、取ってつけたように、弁解めいたことを云いました。いつも、そんな風な調子なのです。そして、兎も角、一通り打合せを済ませた上、井関さんは帰りました。無論、場所や、時間などもすっかり極っていたのでした。

二

さて、当日になりますと、生れて初めての経験です。私は命ぜられた通り、精々念入りに変装して、予め渡されたマスクを用意して、指定の場所へ出掛けました。

変装ということが、どんなに面白い遊戯であるかを、私はその時初めて知ることができました。そのために態々、知合いの美術家の所へ行って、美術家特有の変てこな洋服を借り出したり、長髪のかつらを買求めたり、それ程にする必要もなかったのでしょうが、家内の白粉などを盗みだして、化粧をしたり、そして、それらの変装を、家の者達に少しも悟られないよう、こっそりとやっている気持が、又堪らなく愉快なのです。鏡の前で、まるでサーカスの道化役者ででもあるように、顔にベタベタ白粉を塗りつける心持、あれは実際、一種異様の不思議な魅力を持っているものです。