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おやかたコブセ

親方コブセ

金 史良

「新潮 通卷四百四十四號(一月號)」新潮社、1942(昭和17)年1942(昭和17)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,006 字 · 16 页

青空文庫

「へへ、この野郎、今度は正直に出たな。貴様が煙草屋なら、こちとらはお客だぞ。ええか、この馬の骨奴! 貴様んとこじゃ、いつもお釣りは人の掌にはじくようにぽいと落すそうじゃが、おう、ほんとかえ?」

「何なのよ、どうしたのよ」と、その時奥の方から綺麗な娘さんが白い歯を見せてにこにこ笑いながら出て来た。

親方コブセはちらっと面を火照らしたようだが、急に懐手をして胸を反らした。

「へん、お前だな。釣銭をぽいとはじくように落すちゅうのは?」

「……あら、そのことなの? だって……は、はい、どうも妾が悪うございました」そこで彼女は膝をついてぺこりと頭を下げた。「父ちゃんも謝ってよ。妾が悪かったんだから。これから注意します」

私はきょとんとなった。主人は仏頂面で何やらぶつくさ呟いていたが、これも一度ぺこんとした。すると親方コブセははじめて私に気付いたように、じろりとこちらを見上げた。

「じゃおい、貴様一つ買ってみな!」と、顎をしゃくり上げる。射すくまれた形の私は慌てて拾銭玉を取出し、台の上においた。

果して娘さんは煙草のお釣りを、

「はい一銭のお返し」と云って、私の掌の上に押し付けるようにして渡してくれた。