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うたせてやらぬかたきうち

討たせてやらぬ敵討

長谷川 伸

「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页

青空文庫

「口を慎め、主君を式部少輔殿とは何事じゃ」

「二年の後か三年の後か、加藤家御取潰しはとにかくに近年のうちにありましょう」

「こ奴、乱心したな」

「治部太夫殿、お互いに浪々の身と、不運は目前に迫っている。当節柄じゃ、名ある浪人ですら仕官の途がない、餓死する浪人もなかなかに多い、宮内は武芸不鍛錬の非力者故、まず以て仕官の途はない、治部太夫殿は槍の名人、が、老いているからこれも仕官の途はまあない」

「黙れ、黙れこ奴、黙らぬか」

「黙らぬ、いうだけのことはいうのじゃ、武士の本文によって、二君に仕えず、清節を完うする外にお互いの途はない」

「さ、黙ってしまえ、黙らぬと合点せぬぞ」

「してみればこの世にお互いは用がない、治部太夫殿、この世に用のない老人殿、宮内の無心を肯入れてくれ」

「白癡ッ、あの槍が眼につかぬか」

「望ましい、どうか手に執ってくれ」

「こ奴、治部太夫の名槍の錆になりたいのか」

「槍を執っては家中無敵の老武者を、一刀両断にしてみたいのじゃ、非力者の力を試みたいのじゃ」

「白癡た奴め、よしッ」

瓦破と起った治部太夫は、身軽く躍りあがって槍をとった。槍鞘はケシ飛んで、蒼白い燦きが穂先四寸に放たれた。