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うたせてやらぬかたきうち
討たせてやらぬ敵討
長谷川 伸
「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页
「あれ、何事か起るのでござりますか、わしにはお暇が出るのでござりますか」
「まあそうだ、爺、もし食うに困るようであったら加賀へ行け、あの女は爺の一人ぐらいは置いてくれる」
「でござりますが、それはどういうわけで」
「聞くなよ、わしもいいはしない」
◇
生島慎九郎夫婦は、城下へ這入って旧故の人を訪れ、先年討たれた矢作治部太夫の仇討を、今日神指でするから、証拠人として成行きを見届けてくれと頼んだ。頼まれたのは、蒲生家の浪人で今は商人となった、七日町の植木才蔵という人であった。快く引請けた。
本望を遂げるのは、今からではどうしても夕刻だ、或いは夜に入るかも知れないと思われた。しかし急いで七日町を出た。慎九郎もきいも、身軽に出立っていた、植木才蔵も助太刀の用意をしていた。
上杉氏が築いた神指城は平城で、天嶮の要害ではなかった、廃棄されて久しい今では、ただみる平凡な田園だった。
宮内の命を恪守して、先刻から昔の外濠、今は無名の流れの傍りに、老僕はただ一人、木の伐株に尻をかけていた。やがて老僕の眼の前に男二人女一人が現れた。
日はもう落ちて、赤い光が北の空の白い立つ雲まで染めていた。