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うたせてやらぬかたきうち
討たせてやらぬ敵討
長谷川 伸
「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页
家の中に宮内はいるはずだが、コトリとも音がしなかった。
「弓削田宮内の家はここじゃのう」
強そうな慎九郎は、逸りきった口調で、老僕に尋ねた。
「はい。だが、只今は外出しておられます」
「なに、不在じゃ」
慎九郎は眼をぱちりとさせた、妻きいは夫の顔をみて、太息を吐いた。
「不在でもよろしい、生島氏、とにかく、中へ」
敏い植木才蔵は抜からず助言した。
「門から内へ這入られては困る、主人は他出してござる、ご不在と申すになんでも這入るとは、お人柄にも似ぬことでござります」
「退け、何で袖を押える、放さぬと痛い目させるぞ」
焦慮気味の慎九郎は、老僕の押えた袖を、癇強く振り払った、袖は綻びてビリッと泣いた。
「きい殿、慎九郎殿に続きめされ、この老人はわしが支えております」
才蔵は老僕を後から押えつけた。
門から、一足踏み入れると、慎九郎はハッとした。眼の前の板屋の四方に、積み重ねられた柴は、いっせいに焔と煙を毒々しく吐きあげていた、夕暮だけに光は四方に及んでいた。
「おッ、火をかけた」
咽喉をつんざくかと聞ゆる慎九郎の声に、門前で押し合っていた才蔵は、老僕を突き退けて飛んできた。