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とうふかい

豆腐買い

岡本 かの子

「三田文学」1934(昭和9)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,329 字 · 29 页

青空文庫

けれども僅かながらも資本をおろし、商ないをしている家に育った息子だけに純粋の労働者にはなり切れない。そこでナチス。横町の酒店の支部にしょっちゅう集まって支部旗の上げ下ろしの手伝いもやる。スケート館に大会のあるときは決死隊の一人になって演壇に背中を向けて入口を睨み立ち列んでいる。リンデンの街路樹が一日に落葉し暫らく広く見えている伯林の空にやがて雪雲が覆い冠さって来ると古風な酒店の入口にビールの新酒の看板が出る。夜町の鋪道は急に賑い出す。その名ごりの酔いどれの声が十二時過ぎになって断続して消えかかろうとする頃いつも加奈子の家の軒下を乱れた靴音で通り過ぎて行く一組がある。五六軒先の荒物屋の母子だ。息子が母親を担いでいるときもある。母親が息子を担いでいるときもある。息子が母親に担がれているときは息子が酔いすぎてとてもはしゃいでいる。母親が息子に担がれて帰るときは母親が酔いすぎて大概泣いている。焙き出したばかりの暖炉の前で加奈子が土の底冷えをしみじみ床を通して感じた独逸の思い出である。

まだ子供とはいいながら日本人にあとをつけられるのは気味の悪いものだ。これに引きかえ西洋人のつけて来るのはあまい感じがする。