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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

そのときも彼はどこかへ四日も行ってやっと帰って来たところなのである。彼は大変疲れたような気がしていた。すぐそこにころがりたいような心持でここまで来ると、友達の犬に見つかって、早速顔中を舐(な)め廻された。それを彼はいかにも嬉しそうにして、だまって犬の顔を見ているところへ、

「善馬鹿! けえったんかあ」

と叫びながら五六人の子供等が馳けて来た。そして、たちまち彼の体は暇でいたずら好きの者共に囲まれてしまったのである。

皆はてんでに勝手な悪口や戯言(じょうだん)を彼にあびせながら、手に持っている魚を突っついたり、犬をけしかけたりした。

「う! 穢(うだ)て。あげえ犬の舐めてる魚あまた善馬鹿が食うんだぞ。ペッ! ペッ! 狂犬病さおっかかったらどうすっぺ」

「ひとー馬鹿(こけ)にしてけつかる。もうとうに狂犬病さかかってっとよ! この上へ掛るにゃ命が二ついらあ」

「わはははは。ほんによ。うめえや」

「おっととととと」

人々は急に笑い出した。

下等な笑声の渦巻の下を這うようにして、善馬鹿の低い甘ったるい、

「へへへへへ!」

という声が飛びはなれて不快に響き渡った。

「厭(や)んなことしてけつかる」