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にせさつじけん

贋紙幣事件

甲賀 三郎

「少年倶楽部」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,495 字 · 17 页

青空文庫

和尚さんだろう。背の高い恐い顔をした坊さんが立っていた。

「何をしているんだ」

坊さんらしくない横柄な声で訊いた。僕はどう云おうかと思っていると、縁の下からあとずさりをしながら森君が這いだして来た。洋服中泥だらけだ。僕は森君があとずさりで這っている姿がおかしかったので、クスリと笑った。然し、坊さんは笑おうともしないで益々恐い顔をして、今度は這い出したばかりで、ズボンの泥を払っている森君の方を向いて云った。

「何をしているのか」

「僕この上から五十銭銀貨を落したので、潜り込んで探しているんです。中々見つからないのです」

森君が弁解すると、坊さんは少し顔を和げて優しくなった。

「なに、五十銭銀貨を落したって。そそっかしい子供だなあ。小父さんが五十銭出して上げるから、縁の下に潜るのはお止し」

そう云って坊さんは懐中から財布をだして、五十銭銀貨を森君に渡そうとした。森君は手を振って受取らなかった。

「好いんです。僕が悪かったのですから。もう縁の下なんかに潜りません。さようなら」

森君は帽子を取ってペコンとお辞儀をして、坊さんが呆れている暇にさっさと歩きだした。僕も少し呆れながら森君の後について行った。