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あかいろうそくとにんぎょ
赤いろうそくと人魚
小川 未明
「東京朝日新聞」1921(大正10)年2月16日~20日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,102 字 · 14 页
波の音を聞いていると、なんとなく、遠くの方で、自分を呼んでいるものがあるような気がしましたので、窓から、外をのぞいてみました。けれど、ただ青い、青い海の上に月の光が、はてしなく、照らしているばかりでありました。
娘は、また、すわって、ろうそくに絵を描いていました。すると、このとき、表の方が騒がしかったのです。いつかの香具師が、いよいよこの夜娘を連れにきたのです。大きな、鉄格子のはまった、四角な箱を車に乗せてきました。その箱の中には、かつて、とらや、ししや、ひょうなどを入れたことがあるのです。
このやさしい人魚も、やはり海の中の獣物だというので、とらや、ししと同じように取り扱おうとしたのであります。ほどなく、この箱を娘が見たら、どんなにたまげたでありましょう。
娘は、それとも知らずに、下を向いて、絵を描いていました。そこへ、おじいさんと、おばあさんとが入ってきて、
「さあ、おまえはゆくのだ。」といって、連れだそうとしました。
娘は、手に持っていたろうそくに、せきたてられるので絵を描くことができずに、それをみんな赤く塗ってしまいました。
娘は、赤いろうそくを、自分の悲しい思い出の記念に、二、三本残していったのであります。