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あかいステッキ
赤いステッキ
壺井 栄
「中央公論」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,482 字 · 23 页
だが、雪といえば雪うさぎの作れるほどに積もることさえめったにない瀬戸内海の島で、今梅の匂っている健たちの村とちがって、そこでの暮し方はお母さんにとっては想像もつかない困難のあることが分かっていたし、それよりももっと心を痛めるのは克子の目のことであった。少しの光りにまぶしげに眉をしかめる克子が、雪の反射でどんなにつらい表情になるだろうと考えると、お母さんの心はしぶるのであった。
「うーむ」
と、思い迷ってうなりながら顔をあげたお母さんの視線をたぐりよせるように、健が唇をとがらせてだまって訴えている。見ると、克子は健の机である踏台にまたがって、かたをゆすぶりながら、
「ウメノハナガサイタア」
と、胸を張っているのであった。お母さんが、よしわかったというようにうなずいて克子の無法を認めてくれると、それで気のすんだ健はそっと克子のうしろにまわり、お尻の下から半分はみだしている読本を両手でぬき取った。力があまってよろよろとなった。それから椅子をくるりとまわして克子に背を向け、
「サイタサイタ、サクラガサイタア」
ひときわ声をはり上げ、さっきよりも口ばやに読んだ。
「ちがわい健ちゃん、サイタサイタウメノハナガサイタ、で」