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あかいステッキ

赤いステッキ

壺井 栄

「中央公論」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,482 字 · 23 页

青空文庫

しかし幼稚園は遠くて方角もわからなかった。泣いて戻ってくる克子に、お母さんはある日「克も健ちゃんのように七つになったら」と聞かせると、

「よし子さんは五つでも行きよらい」

と、肩をふった。その克子に、お前は遊戯もわからん、折紙もできんのだからといったとて、どうして理解できよう。

「克はな、一人で行きよったら危ないんじゃ、目々が悪いせに」

「ほんなら健ちゃんと手々ひいていくが」

そういわれることはよけいにつらい。時にまた早うお医者さんへ行って目をぱっちりしてもらおうと手を引っぱることもあった。そういわれなくても親たちの心にわだかまる思いはそれだけである。今までにも精いっぱいの手だてをして不義理な借金も背負い、そのあげく、ようやく得た今のほのかな視力なのであるが、それははじめの期待からは遠くかけ離れたものである。これからあとも自分たちの力でどれだけの金をかけてやれるものやら、また進歩したといわれる医術がはたしてどれだけのものであるのやら、そのことについては霧の中に立っているような思いであった。

「克ちゃんよ、お前はな、目々が見えんせに盲学校に行かんか、七つになったらな」