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あかいて

赤い手

国枝 史郎

「探偵」1931(昭和6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,057 字 · 21 页

青空文庫

「マシュースは俺達をからかっているんだ。実を云やぁ、俺は指とハンカチを濡らしたが」

「何だか真実らしいわ」サディは尚も剛情を張った「何故もっと用心しなかったの」

「用心たって! あんな重い水の一ぱい入った、然も滑り容い金魚鉢を運ぶんだぜ。そんな時に、内容が水でないなんて、誰が気がつくものか。俺はマシュースの言葉は信用しないよ。奴は冗談に云っただけだよ」

「然うじゃないわ。抜目のないマシュースの事ですもの。唯隙を狙っているだけよ。あの人は一度狙いをつけたら藁一本だって外さないと云う噂じゃありませんか。それに、あの液体の事が真実とすると犯人を見分けるのも一層楽になるし――」

「だけど、ありゃ嘘だよ。そんな莫迦なことがあってたまるもんか。何しろ此処に濡れたハンカチがあるから、一つ試めして見ようじゃないか」

スパイダーは台所へ行くと、ハンカチを水道の承口にかざした。

「若し話の通りだとすれば、結果は直ぐに表われる筈だよ。けれど、ほら何うもならないじゃないか。ね、一体――」

彼は愕いて話を止めた。そして両眼を大きく瞠いた。手に持っているハンカチは次第に桃色から赤に変り、それをかざしていた手も同じ様に赤く染って行った。