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あかいかしゃ
赤い貨車
宮本 百合子
「改造」1928(昭和3)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页
アンナ・リヴォーヴナの少しふるえを帯びた声の合間合間にニーナは、
「素敵! 素敵!」
と叫んだ。
「なんて愉快な機智にとんだお手紙なんでしょう! 本当にわたし母にきかせてやりたい。こんな面白い手紙をもらう娘さんも世間にはいらっしゃるんですものねえ。まったくゾーシチェンコと合作がお出来になるわ、ねえ、ユリヤ・ニコライエヴナ?」
小さい白い布に刺繍をしながら、歯からもれる声でユリヤ・ニコライエヴナは、
「さあ」
やや重く答えた。
「私はゾーシチェンコを知っているけれど、なんだかがさつなひとで……わたしは好きでありませんよ」
下宿へ食事だけしに通って来る小柄な軍医が、下から議論の中心になったゾーシチェンコのとじの切れた短篇集をもって来た。彼は「恐ろしき夜」を女達に朗読しはじめた。
この時間に、村端れの仕立屋タマーラの窓からランプの光が夜の村道までさしていた。
ランプの真下で伯母がラシャの裁物をしている。明日立つナースチャが隣室からの光りで戸口のところだけ明るい台所で、大箱の蓋を開け、荷ごしらえをしている。わずかの下着と、二枚の冬服と一枚外套があるばかりであった。