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あかいらくだ

赤い駱駝

梅崎 春生

「世界」1948(昭和23)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,820 字 · 24 页

青空文庫

夕焼が灰色に沈んでしまうと、狐がおちたような気持になって、おれは洞窟の方に戻って行ったもんだが。

二見が応召する前、趣味で童話をかいていたということを、おれにもらしたのも、そんな夕焼の海岸でだった。二見も夕焼をながめに出てきたのかどうか、おれは知らない。海岸で何となく一緒になって、夕焼を見ながら、ちょっと立話をしたんだ。ふだん二見は、士官室でもあまり口を利かず、黙りこくっていたような男だったから、そんな自分の思い出を話す気になったのも、ふと夕焼の魔術にかかったのかも知れない。その日も南の方にむくむくと積乱雲が立っていて、それが夕焼にあかく染まっていたのだ。二見の弱々しく澄んだ眼にも、その色がうつっていた。

「あんな雲を見ると、おれもも一度童話かいて見たい気持になるんだ」

二見はつぶやくようにそう言った。そしてあわてたように視線をもどして、妙な笑いを浮べたのだ。そしてつけたすように、また呟いた。

「もちろん、もう書けもしないけれども」

「帰りたいだろうな。お前も」

何という気持でもなく、おれはそう答えた。すると二見はぎょっとしたように身体を硬くしたようだった。