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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

02 駈込み訴え

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,864 字 · 44 页

青空文庫

四

そして、ふいといなくなったまま二年も来ないかと思うと、一と月おきにあらわれる、というふうなことが続いた。――彼が蒔絵師の六助だとわかったのは六七年まえのことで、そのころはもう世間の評判もおち、彼自身も殆んど仕事をしなくなっていたらしい。気が向けば修理ものなどをするくらいで、人柄もずっと気むずかしく、柏屋へ来ても部屋にこもったきりで、人の話を聞くようなこともなくなった。

「まったく話というものをしない人で」と金兵衛は登に云った、「二十年ちかくもお宿をしていて、おかみさんや子供があるかないかさえわからなかったんですからな、養生所へ入れて頂くときにもなんにもわからないので、私どもはずいぶん閉口いたしました」

柏屋には四人の子供が待っていた。

四

その子供たちは、六助の娘の子だそうで、十一になるともという長女が、高熱をだして寝かされていた。その下が助三という八歳の長男、次が六歳のおとみ、三歳の又次という順であるが、みんな継ぎはぎだらけのひどい妝をしているし、痩せほそって顔色が悪く、末っ子の又次のほかはみな病人のようにみえた。おとみは又次を抱き、助三はその二人を自分の躯で庇うように、ぴったりと寄りあって、不安と敵意のいりまじった、おどおどした眼でまわりをぬすみ見ていた。