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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

03 むじな長屋

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,416 字 · 53 页

青空文庫

三

入所患者の診察から、調剤書を書き終るまで、半太夫と登はずっと去定に付いていたが、なにかあるたびに、二人は互いに眼で警戒しあった。

――なかなかいいようじゃないか。

登は心の中でそう呟いた。森半太夫という人間が急にちかしく、また好ましく感じられだしたこと、しかもそれが少しも不自然でないことにおどろきを感じた。

――少なくとも津川より人間らしい。

津川玄三が「田舎者ですよ」と軽侮したことを思いだし、自分も同じような眼で見ていたことは忘れて、森にはまなぶところさえありそうだ、などと思うのであった。

調剤書が終ると、去定は外出の支度をしながら登を見た。

「むじな長屋の佐八のぐあいはどうだ」

「べつに変りはないようです」

「では先に廻るところがあるからいっしょに来てくれ」

半太夫と登は廊下へ出た。半太夫は調剤所へはいろうとして、登に振返りながら云った。

「気をつけろよ」

登は微笑しながら頷いた。

三

去定のいった先は松平壱岐守邸であった。それは牛込御門をはいって約二丁、定火消のあるちょっと手前だったが、そこへいき着くまで、去定は絶えまなしに独り言を云い続けた。「かれらにそんな権利があるのか、あるとすれば誰に与えられたのか」