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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

03 むじな長屋

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,416 字 · 53 页

青空文庫

半太夫はそこでちょっと言葉を切り、まるで怒号するように声をひそめて続けた、「――かれらは貧窮し病んでいるのです、施療の停止は、そのままかれらを死へ追いおとすことです、私にはお受けできません、もういちど御詮議を願います、――そう云うなり立って、出て来てしまわれたんだ」

話しているあいだに、朝食を知らせる板が鳴った。二人はその音を聞きながら、どちらも立とうとはしなかったし、半太夫の話が終ってからも、暫くじっと坐っていた。

「小川氏はどうなんだ」やがて登が眼をあげて訊いた、「あの人はどっちの側に立っているんだ」

「どっちでもないだろう、本当なら彼がその折衝に当るべきだ、養生所の責任者なんだからな」と半太夫が云った、「しかし彼はその席に坐っていただけだし、一と言もものを云わなかった、――おそらくどっちの側の人でもないだろうな」

そして半太夫は立ちあがり、「飯にしよう」と云って登を見た、「新出さんを怒らせないように気をつけてくれ」

登は自信がなさそうに黙っていた。

去定は午前ちゅう不機嫌だった。むろん怒っているようなそぶりはみせないし、荒い声をあげるわけでもないが、不機嫌で苛いらしていることはようすでわかった。