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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

05 徒労に賭ける

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,113 字 · 35 页

青空文庫

六

「いつかのやつですぜ」と竹造が吃りながら云った。

六

「いつかのやつって」

「このまえ本郷の通りで、わざと先生にぶっつかって文句をつけたやつです」

「そうかな、私は気がつかなかったが」

「あっしはあの面で覚えてましたよ」と竹造は云った、「野郎こそこそ逃げていったじゃあありませんか」

「そうらしいな」と登が云った。

去定はその日、十七軒ある娼家をぜんぶ診てまわった。中には拒む家もあったが、去定は相手の云うことなど聞きもせず、強引にあがって女たちを呼びだし、ちょっとでも疑わしい者は遠慮なく診察をし、病気に冒されていれば投薬したうえ、症状に応じてその雇い主たちに注意を与えた。

「この女は十日休ませろ」とか、「この次おれが診に来るまで客を取らせるな」とか、ごくひどい者は「生家へ帰らせろ」と命じたりした。たいていはうわべだけにしろ、はいはいとすなおに聞いた。診察も治療も只でしてくれるのだから、むしろ感謝するのが当然であろう。けれども中には反抗する者もあった。

「うちではこの女一人が稼ぐんですよ」とやり返す女主人がいた、「こっちの女はお茶ばかりひいて、三日に一人の客も取れやしない、肝心の稼ぎ手に十五日も休まれたら、それこそ口が干あがっちゃいますからね、それとも十五日間の食い扶持を下さろうっていうんですか」