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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

05 徒労に賭ける

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,113 字 · 35 页

青空文庫

五

「まだ修業ちゅうですから」と登は答えた、「結婚のことなど考えたくありません」

去定は登を見た、「まだ姉娘のことにこだわっているのか」

「いや、と申せば嘘になるでしょうが」と登は云った、「いまの私には修業のほうが大事であり、また張合いがありますから、当分のうちはそういうことを考えたくないのです」

「では約束だけでもしておいたらどうだ」

登の顔がするどく歪んだ。

「せっかくですが」と彼は顔をそむけながら云った、「私にはそういう約束はできません」

去定はじっと登の顔をみつめていたが、やがて机のほうへ向き直り、低い咳をして云った。

「話はそれだけだ」

登は辞儀をし、記録の包みを持って立ちあがった。

五

自分の部屋に帰って、記録の包みを戸納へしまってから、登は森半太夫の部屋を訪ねた。半太夫は机のそばに行燈をひきよせて、日記を書いているところだった。入所患者に関する毎日の記事を書くのが、半太夫に任された事務の一つだったのである。

「いま終るところだ」と半太夫が云った、「そこに円座がある、ちょっと待っていてくれ」

登は脇にある円座を取って坐った。

半太夫を訪ねたのは、去定のことを知りたかったからである。