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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

07 おくめ殺し

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,548 字 · 47 页

青空文庫

四

入所患者の一人一人に、病状と投薬を記した帳面があり、容態によって薬を変える分は、そのたびに調剤の配合を書きつけるのであった。

「続けていい」と去定は書きながら云った、「それからどうした」

登は話し続けた。話が終っても、去定は黙って筆を動かしていたが、やがて最後の帳面が済むと、筆を置きながら、深く大きくまるで唸るような溜息をついた。

「高田屋のほうはわかった」と云って、去定は登を見た、「だが角三のほうの事情はどうなのだ」

登は「それは」と云って口をつぐんだ。

「相手を殺そうとまで思い詰めるのは尋常ではない、なにかそれだけの仔細があるのだろう」

「それは聞きませんでした」

「肝心なのはそこではないか」と去定はふきげんに云った、「――まあいい、向うへいってからでもおそくはないだろう」

四

去定も角三を長屋へ帰すことにきめた。さもないと高田屋は、本当に長屋ぜんたいの者を、共謀といって訴えるかもしれない。そんな訴えを、町方で取りあげるかどうかは疑わしいが、高田屋で金を撒くことも考えられるし、いずれにせよ事が面倒になる。それよりも、角三は豊島郡の親類へいって来たことにし、帰り道に崖から落ちていたところを去定がみつけた。