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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
07 おくめ殺し
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,548 字 · 47 页
藪下の長屋は去定も知っていた。いまでもときどき寄っているが、角三というその男のことは知らなかった。
「あっしは十二の年からよそへ出ていたんです」と角三は云った、「おやじは加吉といって、二年まえに死にました」
「加吉」と去定は眼をほそめた、「――あそこは八軒長屋が三棟並んでいた、加吉というと、端の長屋で畳職人をしていたと思うが」
「そうです、足の痛風で立ち居が不自由なくせに、おっそろしく強情なおやじでした」角三は寝返ろうとして顔をしかめ、痛みをこらえるために歯をくいしばった、「先生は、――」と彼は痛みをそらすように、わざと平気な声で訊いた、「先生は多助っていうとしよりを知ってますか」
「夜鷹そばをやっていた老人だな」
「そうです、済みませんがあそこへ使いをやってもらいたいんですが」と角三は云った、「おたねっていう娘に来てもらいたいんです、話さなくっちゃならないことがあるから、すぐ来てくれって云ってもらいたいんですが」
「明日になったら呼んでやろう、今夜はこのまま眠るがいい」
「今夜はだめですか」
「おまえは誰かを殺そうとしたんだろう」と去定が云った、「町木戸で咎められたとき、もし気づかれたらどうする、朝になったら使いをやるから、今夜はおとなしく寝るがいい、さもないと傷に障るぞ」