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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

06 鶯ばか

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 页

青空文庫

「水が飲みたい」と長次は云った、「でもだめだ、あとでだ、ね」

「すぐだ、すぐ飲めるようになるよ」

長次は眼をつむった。しかし瞼は合わさらず、白眼が見えていた。鼻翼の脇に、紫色の斑点があらわれ、呼吸はさらに早く、小刻みになった。

「先生」とおけいがぎょっとしたように囁いた、「この息は死ぬときの息じゃありませんか、あたしこの息を知ってますよ先生、そうでしょ、死ぬときの息でしょ、どうにかして下さい先生、どうにかならないんですか」

「そのまま死なしてやって下さいな」と向うからおふみが云った。

みんなとびあがりそうになって、振向いた。五郎吉もおふみも、これまで一と言も口をきかず、寝床の中で横になったきり、殆んど身動きもしなかった。それがいま急に、人間の声とは思えないような、かさかさにしゃがれた声で呼びかけたのである。振返ってみると、おふみはじっと仰向きに寝ており、眼はつむったままであった。

「その子が泥棒したことは知ってました」とおふみはだるいような口ぶりで、ゆっくりと云った、「おきぬさんに云われなくっても、あたしはちゃんと知ってたんです、しょうがなかったもの、長が悪いんじゃない、どうにもしょうがなかったんだもの」